ごきげんよう!元証券ディーラーの公認会計士KYです。
一部ですが、証券会社の引受部門でIPOに携わった経験もあります。
今回は、2023年10月からのIPOの制度変更のうち、「【仮条件】の範囲外での【公開価格】設定」が可能になったことについて取り上げたいと思います。
とくに次のことを意識してもらうといいでしょう。
- 2023年10月からのIPOの制度変更後の「ブックビルディング」申込の注意点
- 「【仮条件】の範囲外での【公開価格】決定」となったIPO銘柄の株価パフォーマンス
いつも読んで頂いている方は「今回の記事の前提」はスキップして「2023年10月からのIPOの制度変更」から読んでくださいね!
今回の記事の前提
IPOは株式投資の中でもかなり特殊な分野ですので、本題に入る前に、今回の記事の前提についてお話しておきます。
当カテゴリ「IPO投資攻略法」の対象
当カテゴリ「IPO投資攻略法」の対象は、IPOにおいて株式が上場される前に「ブックビルディング」という手続を通じて【公開価格】で株式を購入することで、株式上場日に【初値】で売却することを想定しています。
「ブックビルディング」申込で私が注目しているポイント
私がIPOの「ブックビルディング」に申込む際に注目しているポイントは、次の2つになります。
- 「IPO総額」が小さいか(10億円未満か)
- 会社の事業内容がいわゆるIT系か
詳しい内容については別の記事でまとめていますので、まだ読まれていない方はこちらをチェックしてもらえればと思います。
IPO関連の株価のまとめ
また、IPOに関して色々な種類の株価がでてきますので、当カテゴリ「IPO投資攻略法」で使用する株価について整理しておきます。
- 【仮条件】:「ブックビルディング」で投資家に提示される株価の価格帯のこと。1,800~2,000円といったように提示され、原則として投資家はその価格帯の範囲内の株価と購入したい株数を指定して「ブックビルディング」に申込みます(例外として「【仮条件】の範囲外での【公開価格】設定」可能なケースで、【仮条件】の上限を超えた株価でも購入したい場合は、株価を「成行」または「ストライクプライス」などにして申込むことになります)。
- 【公開価格】:IPOの「ブックビルディング」の結果、投資家が株式を購入するときの株価。
- 【初値】:IPOにおいて株式が上場されて初めて取引が成立したときの株価。
ここまで読んでみて、そもそもIPOって?とか、「ブックビルディング」って何だっけ?とか思われた方は、「超」初心者向けに初歩からIPOの基礎知識ついてまとめた記事を書いていますので、まずはこちらをチェックしてみてくださいね。
2023年10月からのIPOの制度変更
2023年の10月からIPOの制度が一部変更されています。
日本証券業協会などがIPOの値決めルールに関する改善策をとりまとめ、それを受けて、政府が関係する金融商品取引法に関する内閣府令を改正したのですが、具体的な改善策は次になります。
- 【仮条件】の範囲外での【公開価格】設定
- 売出株式数の柔軟な変更
- 上場日程の期間短縮
- 上場日程の柔軟化
【仮条件】の範囲外での【公開価格】設定
中でも注目されるのは「【仮条件】の範囲外での【公開価格】設定」で、これまで【公開価格】は事前に設定される【仮条件】の範囲内でしか決定されなかったのですが、有価証券届出書や目論見書といったという開示書類に記載することにより、(その他の条件を含めた総合的な条件の範囲内ではあるものの、)【公開価格】が【仮条件】の下限の80%以上かつ上限の120%以下の範囲内で決定できるようになりました。
今回の記事では、これについて、さらに深掘りしていきたいと思います。
売出株式数の柔軟な変更
また、売出株式数についても、【公開価格】の決定と同時に売出株式数の変更ができるようになっており、有価証券届出書や目論見書といったという開示書類に記載することにより、(その他の条件を含めた総合的な条件の範囲内ではあるものの、)「【公開価格】決定時の売出株式数」が「【仮条件】設定時の売出株式数」の80%以上かつ 120%以下の範囲内で変更できるようになっています。
なお、売出株式数の「売出」とは既存株主等が証券会社を通じて「ブックビルディング」等の手続を経て不特定多数の投資家に販売することをいい、会社が株式を発行して資金調達をする「公募(増資)」とは、証券会社を通じて「ブックビルディング」等の手続を経て不特定多数の投資家に販売する点では同じですが、既存株主等による株式の売却である点で異なります。
上場日程の期間短縮
これまでは有価証券届出書という開示書類を証券取引所が上場を承認した日に提出していたのですが、上場承認前の提出を可能とすることにより、承認から上場まで約1か月かかる期間を21日程度まで短縮できるようになっています。
上場日程の柔軟化
さらに、これまで上場承認時の有価証券届出書や目論見書といった開示書類に特定の上場日を記載していた実務について、一定の期間(1週間程度の範囲内)の上場日程(条件決定日、申込期間、払込期日、株式受渡期日、上場日等)を記載することが可能となっています。
この他、上場承認後の市場環境等を踏まえ、時機をとらえた上場を可能とする観点から、証券取引所への上場申請を取り下げることなく、訂正届出書(有価証券届出書の内容を変更する場合に提出する届出書)の提出による上場日の変更等も可能となっています。
2023年10月からのIPOの制度変更後の「ブックビルディング」申込の注意点
2023年10月からのIPOの制度変更後の「ブックビルディング」申込の注意点は次の一点に尽きます。
- 「ブックビルディング」申込に際して、【仮条件】の上限の120%でも購入したい場合は、株価を「成行」または「ストライクプライス」で申込む
「成行」とは株式の注文において、買い注文(売り注文)であれば、どのような株価でもいいから買う(売る)といった注文方法になります。
「ストライクプライス」というのは、私がIPOの「ブックビルディング」申込でメインとして利用しているSBI証券の「ブックビルディング」申込における、どのような株価でもいいから買うという申込方法になります。
【公開価格】が【仮条件】の下限の80%以上かつ上限の120%以下の範囲内で決定できるようになっているIPO銘柄の「ブックビルディング」申込について、【仮条件】の上限の100%超で【公開価格】が決定するような場合、SBI証券では、「ストライクプライス」で「ブックビルディング」申込をしていないと、購入するための抽選等の選定手続にすら入ることができず、購入することができませんので、【仮条件】の上限の120%でも購入したいと思う場合は、「ストライクプライス」で「ブックビルディング」申込することが不可欠になります。
SBI証券ではない他の証券会社では別のルールであったり、用語が違ったりするでしょうが、【公開価格】が【仮条件】の下限の80%以上かつ上限の120%以下の範囲内で決定できるようになっているIPO銘柄の「ブックビルディング」申込については、各証券会社ごとのルール等をよく把握して、勘違いによって、意図しない「ブックビルディング」申込にならないように気をつけてくださいね。
なお、どうして私がSBI証券をIPOの「ブックビルディング」申込でメインとして利用しているのかは、IPOの「ブックビルディング」申込で口座開設すべき証券会社についてまとめた記事がありますので、こちらをチェックしてもらえればと思います。
「【仮条件】の範囲外での【公開価格】決定」となったIPO銘柄の株価パフォーマンス
ここからは「【仮条件】の範囲外での【公開価格】決定」となったIPO銘柄の株価パフォーマンスのついてみていきましょう。
「【仮条件】の範囲外での【公開価格】決定」となったIPO銘柄は2024年4月30日現在で、2023年12月に4銘柄、2024年3月に4銘柄、2024年4月に1銘柄と合計9銘柄しかなく、すべてが【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定しています。
データ数が少ないため、それらの傾向を分析した結果が、そのまま将来の傾向を示しているかといえば、そこは慎重に考えるべきでしょうが、それでも何か傾向があるのか調べてみたくはなってきますよね。
【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定した2023年12月上場の4銘柄の【初値】パフォーマンス
2023年12月上場のIPO銘柄では、ほとんどの会社が「【仮条件】の範囲外での【公開価格】設定」ができるようにしており、結果として次の4銘柄が【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定しています。
残念ながら、【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定した4銘柄の【初値】パフォーマンスは比較的低調であり、半数の2銘柄で【初値】が【公開価格】を下回ってしまっています。
ただし、2023年12月は、IPO銘柄15銘柄中8銘柄で【初値】が【公開価格】を下回るような、歴史的にみてもIPOが特別に不調な月であり、【公開価格】からみた【初値】騰落率の平均値(15銘柄)も約23.6%の上昇にすぎないため、【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定したことが【初値】パフォーマンスに悪影響を及ぼしたとまではいいきれないと考えています。
一方で、2023年12月は、IPO銘柄15銘柄中2銘柄が【公開価格】の2倍を超える【初値】をつけていますので、そのような著しく好調な【初値】パフォーマンスとなった銘柄がなかったことに関しては【初値】パフォーマンスの爆発力に欠ける部分があるのかもしれません。
【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定した2024年3月及び4月上場の5銘柄の【初値】パフォーマンス
2024年3月及び4月上場のIPO銘柄では、私の印象では2023年12月ほどではないものの、多くの会社が「【仮条件】の範囲外での【公開価格】設定」ができるようにしており、結果として次の5銘柄が【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定しています。
残念ながら、1銘柄で【初値】が【公開価格】を下回ってしまっていますね。
2024年4月はIPO銘柄が6銘柄で、そのうち【初値】が【公開価格】を下回ったのが、【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定した1銘柄のみではあったのですが、全体としても【初値】パフォーマンスは低調で、【公開価格】からみた【初値】騰落率の平均値(6銘柄)も約14.1%の上昇にすぎず、【公開価格】の2倍を超える【初値】をつけるような銘柄もありませんでしたので、そこまで【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定した悪影響が大きかったとは考えてはいません。
2024年3月はIPO銘柄が15銘柄で、そのうち【公開価格】の2倍を超える【初値】をつけたのが3銘柄、【初値】が【公開価格】を下回ったのが1銘柄、【公開価格】からみた【初値】騰落率の平均値(15銘柄)も約64.1%の上昇とまずまずの【初値】パフォーマンスでした。
【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定した銘柄では、【公開価格】の2倍を近い【初値】をつけた銘柄が1銘柄あるものの、やはり【初値】パフォーマンスの爆発力に欠ける部分がでてくるのかもしれません。
ただし、それを除くと、【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定したことが【初値】パフォーマンスに大きな悪影響を及ぼしたとまではいえないように思います。
【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定した2023年12月上場の4銘柄の約3か月後の株価パフォーマンス
あくまで参考程度にしかならないとは考えていますが、【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定した2023年12月上場の4銘柄については、約3か月後の株価パフォーマンスについてもみてみたいと思います。
ここで、また、これ以降で、約3か月後の株価とは、3か月後の応当日を含む月末の終値のことをいい、株式分割等はなかったものとして逆算して計算することとしています。
表でいうと、ブルーイノベーション(5597)が3か月と20日程度後の株価なのに対し、ヒューマンテクノロジーズ(5621)が3か月と10日程度後の株価という感じです。
また、表にある「約3か月後騰落率」は【初値】からみた約3か月後の株価の騰落率であり、これ以降でも同じです。
【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定した2023年12月上場の4銘柄の「約3か月後騰落率」の平均は25.1%の下落で低調な株価パフォーマンスといえるでしょう。
2023年12月のIPO銘柄15銘柄の「約3か月後騰落率」の平均は37.0%の上昇ですので、【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定したことが上場後の株価パフォーマンスに明確に悪影響を及ぼしていると思われるかもしれません。
ただ、2023年12月のIPO銘柄15銘柄の「約3か月後騰落率」の平均には、IPOの株価パフォーマンスならではの数字のマジックがあって、何かというと、株価が著しく高騰した少数の銘柄の影響によって平均が大きくかさ上げされてしまうことがよくあります。
今回のケースでは、QPS研究所(5595)の「約3か月後騰落率」が約390.7%の上昇、yutori(5892)が約199.4%の上昇となっていて、この2銘柄を除く13銘柄の平均では約2.7%の下落となっています。
もちろん、その平均よりも、【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定した4銘柄の平均の方が下落率が大きいですので、より低調な株価パフォーマンスとはいえるのですが、まだ約3か月後の、会社の事業内容等業績の評価が進んでいない段階で、これからどうなるかは未知数であり、今後の業績発表によってはIPO銘柄の株価が大きく変動していくであろうことを考えると、現段階で評価することは難しいだろうと思います。
また、【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定した銘柄の中に、QPS研究所(5595)やyutori(5892)のように上場後に株価が著しく高騰した銘柄がないということについては、もしかすると上場後に特別に人気化することになりにくい何かがあるのかもしれませんが、これについても、何かを判断するためには、まだまだデータ不足といえるでしょう。
以上、公認会計士KYでした!!
今回は、2023年10月からのIPOの制度変更のうち、「【仮条件】の範囲外での【公開価格】設定」が可能になったことについて深掘りしてみました。
みなさんが最高の相場に巡り合えますように!