ごきげんよう!元証券ディーラーの公認会計士KYです。
一部ですが、証券会社の引受部門でIPOに携わった経験もあります。
今回は、ちょっと昔の2020年のIPOについて振り返ってみましょう。
2020年は、いい方向にも悪い方向にも激しい動きがあった極端な年でしたので、学びが多い年のように感じてますしね。
とくに次のことを意識しながら記事を読み進めてもらえればと思います。
- 2020年IPOの全体的な動向を把握する。
- 「ブックビルディング」申込で注目すべきポイントが実際に役立ったのかについて確認しておく。
- 株式相場全体の大暴落といった特殊要因がIPOの【初値】パフォーマンスに及ぼす悪影響の大きさについて認識しておく。
いつも読んで頂いている方は「今回の記事の前提」はスキップして「2020年IPOの全体的な動向」から読んでくださいね!
今回の記事の前提
IPOは株式投資の中でもかなり特殊な分野ですので、本題に入る前に、今回の記事の前提についてお話しておきます。
当カテゴリ「IPO投資攻略法」の対象
当カテゴリ「IPO投資攻略法」の対象は、IPOにおいて株式が上場される前に「ブックビルディング」という手続を通じて【公開価格】で株式を購入することで、株式上場日に【初値】で売却することを想定しています。
「ブックビルディング」申込で私が注目しているポイント
私がIPOの「ブックビルディング」に申込む際に注目しているポイントは、次の2つになります。
- 「IPO総額」が小さいか(10億円未満か)
- 会社の事業内容がいわゆるIT系か
詳しい内容については別の記事でまとめていますので、まだ読まれていない方はこちらをチェックしてもらえればと思います。
IPO関連の株価のまとめ
また、IPOに関して色々な種類の株価がでてきますので、当カテゴリ「IPO投資攻略法」で使用する株価について整理しておきます。
- 【仮条件】:「ブックビルディング」で投資家に提示される株価の価格帯のこと。1,800~2,000円といったように提示され、(現行の制度では)投資家はその価格帯の範囲内の株価と購入したい株数を指定して「ブックビルディング」に申込みます。
- 【公開価格】:IPOの「ブックビルディング」の結果、投資家が株式を購入するときの株価。
- 【初値】:IPOにおいて株式が上場されて初めて取引が成立したときの株価。
ここまで読んでみて、そもそもIPOって?とか、「ブックビルディング」って何だっけ?とか思われた方は、「超」初心者向けに初歩からIPOの基礎知識ついてまとめた記事を書いていますので、まずはこちらをチェックしてみてくださいね。
2020年IPOの全体的な動向
凄まじすぎる【初値】パフォーマンス
2020年のIPO銘柄全体の【初値】パフォーマンスは次のようになっています。
- 93銘柄中39銘柄で【初値】が【公開価格】の2倍以上
- 93銘柄中23銘柄で【公開価格】を下回る【初値】
- 【公開価格】からみた【初値】騰落率の平均(93銘柄)は129.9%の上昇
2020年は株式を新規上場した会社の4割超が【公開価格】の2倍以上の【初値】をつけ、全93銘柄の平均でも【初値】が【公開価格】の2倍を超えるという、凄まじすぎるパフォーマンスとなりました。
このような【初値】パフォーマンスがあるからこそ、IPOの「ブックビルディング」が人気化しまくって、なかなか【公開価格】で株式を購入することができなくなっているのでしょうけど…
それにしても、全93銘柄の平均で【初値】が【公開価格】の2倍を超えるというのはスゴすぎますよね。
【公開価格】を下回る【初値】となる銘柄も多いのには特殊要因あり
一方で、2020年のIPOで【公開価格】を下回る【初値】となった銘柄が23銘柄もありますが、これは例年よりもかなり多い水準です。
実は、これには特殊要因がありました。
2020年2月から3月にかけて新型コロナウィルスが中国から欧米へと最初に急拡大していった時期に、世界的に株式相場全体が大暴落していたのです。
もちろん、その影響の方が大きかったように思いますが、2020年3月は月間の新規上場件数が24件と比較的多かったこともあり、結果として24銘柄中17銘柄で【初値】が【公開価格】を下回っています。
このような特殊要因も含め、すでに紹介した記事「【IPO】「ブックビルディング」申込で注目すべき2つのポイント」の中で「ブックビルディング」申込にあたって考慮した方がいいマイナスポイントについてまとめていますので、気になった方はチェックしてみてくださいね。
株式の新規上場を中止する会社も続出
また、2020年3月から4月かけては、20銘柄近くについて証券取引所から株式の新規上場の承認取消しが発表されるという異例の事態が発生してしまいました。
あくまで私の感覚ベースですが、新規上場の承認取消しは年に1回か2回あるかないかといったくらいですので、極めて異常な水準だと思います。
新規上場の承認取消しは、証券取引所が新規上場の承認をした後に、会社の不祥事などが発覚した結果として証券取引所が承認取消しをするケースもありますが、会社が主幹事証券等とコミュニケーションをとったうえで自ら申出を行うケースもあります。
このときばかりは、新型コロナウィルスの急拡大に伴う世界的な株式相場全体の大暴落の影響を考慮し、株式の新規上場を中止したり、延期したりした会社が多かったのだろうと推察しています。
こんなこともあるんですねー。
2020年IPO【初値】騰落率ランキング
参考までに、2020年のIPOの【初値】パフォーマンスについて、【公開価格】からみた【初値】騰落率の上位10銘柄と下位10銘柄のランキングを示しておきます。
騰落率トップのヘッドウォータース(4011)を【公開価格】で買うことができた人は【初値】が【公開価格】の…
な、なな、なんとっ…
11倍を超えちゃってますねー?!
「ブックビルディング」の結果として【公開価格】で株式を購入できる投資家として選定された方は、購入の申込をして1週間足らずでテンバガー(株価が10倍になること)達成ですよ!
さすがにやりすぎ感がありますが、このようなことがあるからIPOの「ブックビルディング」が人気化しまくってしまうのでしょうね。
一方で、騰落率がマイナスのトップのニッソウ(1444)は、【初値】で【公開価格】の4分の1超がなくなってしまっています。
「ブックビルディング」申込で私が注目しているポイントについて2020年IPOの検証
ところで、私がIPOの「ブックビルディング」に申込む際に注目している次の2つのポイントは、2020年では実際に役立ったのでしょうか?
- 「IPO総額」が小さいか(10億円未満か)
- 会社の事業内容がいわゆるIT系か
「IPO総額」が10億円未満かの検証
まずは先ほどの【公開価格】からみた【初値】騰落率の上位10銘柄と下位10銘柄のランキングをみてください。
【初値】騰落率から「IPO総額」がどうっだったのかをみていくと、【初値】騰落率上位10銘柄のうちの8銘柄が「IPO総額」が10億円未満となっていますし、残り2銘柄も10億円ちょっとといったところですね。
一方、【初値】騰落率下位10銘柄にも「IPO総額」が10億円未満の銘柄が3銘柄あります。
そのため、「IPO総額」が10億円未満だったら、ほぼほぼ【初値】が高騰し、【公開価格】を下回ることはないというわけではなさそうです。
ただ、ここでちょっと【初値】騰落率下位10銘柄の方の株式上場日に注目してみてください。
すべて3月じゃありませんか?
そう、2020年3月は新型コロナウィルス急拡大に伴う株式相場全体の大暴落などの特殊要因があったことから、24銘柄中17銘柄で【初値】が【公開価格】を下回った月なのです。
なので、2020年3月に関しては「IPO総額」が10億円未満という基準が例外的に通用しなかったとも考えられます。
また、ここでは、株式相場全体の大暴落といった特殊要因がIPOの【初値】パフォーマンスに甚大な悪影響を及ぼすことを頭に入れておきたいところですね。
「IPO総額」の大小からも【初値】パフォーマンスがどうなったのかをみてみましょう。
次の2つの表は、それぞれ2020年のIPOのうち「IPO総額」の小さい下位10銘柄と大きい上位10銘柄をランキングしたものになります。
「IPO総額」の小さい下位10銘柄のうち8銘柄が【初値】が【公開価格】の2倍以上になっていますが、【初値】が【公開価格】を下回ってしまった銘柄もありますね。
一方で、「IPO総額」の大きい上位10銘柄では、【初値】が【公開価格】の2倍以上になっている銘柄はなく、5銘柄で【初値】が【公開価格】を下回ってしまっています。
絶対の基準とまではいえないものの、やっぱり「IPO総額」が小さい方が【初値】が高騰しやすい傾向があるといえそうです。
私としては「IPO総額」が小さい方が【初値】騰落率が高い傾向があり、10億円未満という基準の当てはまりもまずまずのように思っています。
会社の事業内容がIT系かの検証
会社の事業内容がいわゆるIT系かという方は、どうでしょうか?
次の表は、2020年に株式を新規上場させた会社に関して、全銘柄とIT系の銘柄ごとの【初値】騰落率の分布をあらわしたものです。
なお、事業内容がIT系かどうかについては、上場時に公表される資料に記載された事業内容に「インターネット」「クラウド」「セキュリティ」「プラットフォーム」等といったキーワードが含まれているかなどを中心として私の主観も加味して分類しています。
全銘柄と比べてIT系の方が、明らかに【初値】が【公開価格】の2倍以上になる割合も大きく、また、【初値】騰落率がマイナスになる割合も小さくなっていますね。
事業内容がIT系だったら【初値】騰落率がマイナスにならないというわけではないのは残念ですが、それでも【初値】が【公開価格】の2倍以上になる割合が3分の2近くになっているのはスゴイことだと思います。
2020年IPO主幹事証券ランキング
最後に2020年のIPOに関する主幹事証券ランキングも紹介しておきますね。
主幹事証券ランキングの大切さ
と、その前に注意点をひとつ…
実はIPOの「ブックビルディング」の申込は、どこの証券会社でもできるわけではなく、原則として、ほんの一部の証券会社のみというのが実情です。
そして、あくまで私の個人的な考えにすぎないのですが、株式が上場される前に【公開価格】で株式購入するには、「主幹事」というIPOで主要な役割を果たす証券会社に「ブックビルディング」を申込むのが効率的だと思っています。
そのため、IPOの「ブックビルディング」申込にあたっては、主幹事証券ランキングがとっても大切だと思っているのです。
このあたりについては、すでに紹介した記事「まずはココから!【「超」初心者向け】IPOの基礎知識」の中で、IPOに関する証券会社についての注意点を取り上げていますので、気になった方はチェックしてみてくださいね。
実際の2020年IPO主幹事証券ランキングは?
で、実際の2020年IPO主幹事証券ランキングは次のようになっています。
野村證券が首位に輝いていて、以下、みずほ証券、SMBC日興証券、SBI証券、大和証券の順になっています。
昔は野村證券、大和証券、SMBC日興証券の旧四大証券が上位3位までを占めてという感じでしたので、みずほ証券とSBI証券の躍進が著しいですね。
少し内訳欄について補足しておきます。
私はIPOの「ブックビルディング」に申込むに際に次の2つのポイントに注目していますので、私目線で有力な証券会社はどこかという発想で2つのポイントそれぞれと、それら両方の条件をみたす案件の件数をカウントしてみました。
- 「IPO総額」が小さいか(10億円未満か)
- 会社の事業内容がいわゆるIT系か
また、2020年はIPOで【公開価格】を下回る【初値】となった銘柄も多かったので、主幹事証券別に初値公開価格割れとなった件数と割合についての内訳も作成してみました。
私は、現時点では主幹事証券の違いによる傾向があらわれるとまでは思ってはいませんが、参考までにといった感じですね。
内訳欄も加味して考えますと、私、そして私と同じポイントに注目して「ブックビルディング」に申込んでみようかと考えている方にとっては、SBI証券、みずほ証券、SMBC日興証券、野村證券で取引するのがよさそうですね。
実際に私はSBI証券、野村證券、SMBC日興証券に加えて、ネット証券の松井証券でも口座を開設して取引しています(2022年7月に、みずほ証券でも口座開設して取引するようになりました)。
もっとも、私の場合はIPOの「ブックビルディング」申込については、ほとんどSBI証券のみって感じになっちゃっていますし、初心者の方がIPOの「ブックビルディング」の申込をするのなら、まずはSBI証券で口座開設することをオススメしますよ。
どうしてSBI証券をオススメするのかは、IPOの「ブックビルディング」申込で口座開設すべき証券会社についてまとめた記事がありますので、こちらもチェックしてもらえればと思います。
以上、公認会計士KYでした!!
いつものことですが、いささか長文になっちゃいましたね。
でも、この2020年のIPOは、なかなか知っておくべきことが多い年だったように思います。
みなさんが最高の相場に巡り合えますように!