IPO投資攻略法

2023年IPOの動向分析-【初値】騰落率&主幹事証券ランキング-

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ごきげんよう!元証券ディーラーの公認会計士KYです。
一部ですが、証券会社の引受部門でIPOに携わった経験もあります。

今回は、2023年のIPOを振り返り、全体的な動向について分析していきます。
とくに次のことを意識しながら記事を読み進めてもらえればと思います。

いつも読んで頂いている方は「今回の記事の前提」はスキップして「2023年IPOの全体的な【初値】パフォーマンス」から読んでくださいね!

今回の記事の前提

IPOは株式投資の中でもかなり特殊な分野ですので、本題に入る前に、今回の記事の前提についてお話しておきます。

当カテゴリ「IPO投資攻略法」の対象

当カテゴリ「IPO投資攻略法」の対象は、IPOにおいて株式が上場される前に「ブックビルディング」という手続を通じて【公開価格】で株式を購入することで、株式上場日に【初値】で売却することを想定しています。

「ブックビルディング」申込で私が注目しているポイント

私がIPOの「ブックビルディング」に申込む際に注目しているポイントは、次の2つになります。

  • 「IPO総額」が小さいか(10億円未満か)
  • 会社の事業内容がいわゆるIT系か

詳しい内容については別の記事でまとめていますので、まだ読まれていない方はこちらをチェックしてもらえればと思います。

IPO関連の株価のまとめ

また、IPOに関して色々な種類の株価がでてきますので、当カテゴリ「IPO投資攻略法」で使用する株価について整理しておきます。

ここまで読んでみて、そもそもIPOって?とか、「ブックビルディング」って何だっけ?とか思われた方は、「超」初心者向けに初歩からIPOの基礎知識ついてまとめた記事を書いていますので、まずはこちらをチェックしてみてくださいね。

2023年IPOの全体的な【初値】パフォーマンス

2023年のIPO銘柄全体の【初値】パフォーマンスは次のようになりました。

2023年は【公開価格】からみた【初値】騰落率の平均(96銘柄)が63.2%の上昇と、良好な【初値】パフォーマンスと思われるかもしれません。

しかしながら、2023年は、私がIPOについてデータを採り始めた2014年以降でもっとも低調な【初値】パフォーマンスとなってしまった2022年や2021年から一部で回復がみられたものの、それに近いような【初値】パフォーマンスになってしまっているといえるでしょう。
次の表は、各年のIPOについて、【公開価格】からみた【初値】騰落率の平均と騰落率別の銘柄数の分布をまとめたものになります。

IPO【初値】騰落率の平均と騰落率別の銘柄数の分布(2014年から2023年まで)

ご覧のとおりなのですが、2023年は、【公開価格】からみた【初値】騰落率の平均や、【初値】が【公開価格】の2倍以上となった銘柄の割合で、2014年以降最低であった2022年の水準からは回復しているものの、【初値】が【公開価格】を下回った銘柄の割合が上昇してしまっています。

前半と後半で大きく異なる2023年IPOの【初値】パフォーマンス

2023年は【初値】パフォーマンスが時期によって異なっているという特有の傾向がありました。
具体的には、前半の1月から6月までと後半の7月から12月までで大きな違いが生じています。

IPO【初値】騰落率の平均と騰落率別の銘柄数の分布(2023年の上期と下期)

これについては「新興市場株・小型株全体の絶不調」であったことが大きな要因であったように考えています。
2023年は日本の株式相場全体としては、1年間を通してみれば堅調だったのですが、新興市場株・小型株全体では6月の高値を起点として下落を続け、底をついてからもそれほど回復しませんでした。

例えば、日本の株式相場全体の動きを代表する株価指数である日経平均株価は、昨年末の26,094.50円から6月には33,772.89円(昨年末比29.4%高)の高値をつけた後、下落に転じ、10月には30,487.67円(昨年末比16.8%高)まで下げたのですが、そこから11月に33,853.46円(昨年末比29.7%高)と高値を更新して、33,464.17円(昨年末比28.2%高)で終了しています。

これに対して、日本の新興市場株の代表的な株価指数である東証グロース市場250指数(旧東証マザーズ指数)は、昨年末の730.41から6月に高値871.35(昨年末比19.3%高)をつけるまでよかったのですが、そこから10月につけた安値が618.70(昨年末比15.3%安)と、高値からみると29.0%も安い水準まで下落を続け、それほど回復することもなく、昨年末を下回る706.41(昨年末比3.3%安)で終了してしまいました。

おそらく、東証グロース市場250指数(旧東証マザーズ指数)にみられるように6月までは新興市場株・小型株全体の堅調な動きに支えられて、IPOの【初値】パフォーマンスも好調時と同レベルまで回復していたのですが、新興市場株・小型株全体が6月の高値から30%近く下落していく過程の中で、【初値】パフォーマンスも近年でも最悪レベルまで落ち込んでしまったものと思われます。

すでに紹介した「【IPO】「ブックビルディング」申込で注目すべき2つのポイント」の記事でも注意すべきマイナスポイントとして記載しているのですが、「株式相場全体や新興市場株・小型株全体の絶不調」なときのIPOの【初値】パフォーマンスは要警戒といえるでしょう。

ただ、それでも2023年通期では、【公開価格】からみた【初値】騰落率の平均(96銘柄)は63.2%の上昇となっていますし、【公開価格】を下回る【初値】となった銘柄も同数あるものの、IPO銘柄全体の4分の1超が【公開価格】の2倍以上の【初値】をつけていますので、過去の【初値】パフォーマンスと比べて低調といっても、注意すべきマイナスポイントをきちんと警戒することが大前提ですが、「ブックビルディング」に申込むだけの魅力はまだあるように思います。

2023年IPO【初値】騰落率ランキング

参考として、2023年のIPOの【初値】パフォーマンスについて、【公開価格】からみた【初値】騰落率の上位10銘柄と下位10銘柄のランキングも示しておきます。
なお、下位10銘柄については、同率8位が4銘柄ある関係で、結果的に下位11銘柄となっています。

2023年のIPO【初値】騰落率上位10銘柄のランキング
2023年のIPO【初値】騰落率下位10銘柄のランキング

騰落率トップのアイデミー(5577)を【公開価格】で買うことができた人は、【初値】が【公開価格】の5倍を超えており、大変うらやましいことになっていますね。
このようなことがあるからこそ、IPOの「ブックビルディング」が人気化しまくって、なかなか【公開価格】で株式を購入することができなくなっているのでしょうけど…

一方、【初値】騰落率下位10銘柄の方に目をやると、すべての銘柄が【公開価格】を下回る【初値】となってしまっています。
なお、2023年ではIPO銘柄全体の4分の1超の26銘柄が【公開価格】の2倍以上の【初値】をつけている反面、同数の26銘柄が【公開価格】を下回る【初値】となってしまいました。

私たちのような一般の投資家が「ブックビルディング」に申込んでも、なかなか【公開価格】で株式を購入できる投資家として選定されることはありません。
もし、幸運にも選定されたとして、【公開価格】で株式を購入した銘柄が【公開価格】割れの【初値】となるのは悲しいですよね。
アイデミー(5577)のように【初値】が高騰するような銘柄と、【初値】が【公開価格】を下回ってしまう銘柄とを簡単に判別できるようなポイントはないのでしょうか。

2023年IPOを対象とした「ブックビルディング」申込で私が注目しているポイントについての検証

私はIPOの「ブックビルディング」に申込む際に次の2つのポイントに注目しています。
ここからは2023年のIPOにおいて、この2つのポイントが銘柄選別に有効であったのかについて検証していきます。

  • 「IPO総額」が小さいか(10億円未満か)
  • 会社の事業内容がいわゆるIT系か

「IPO総額」が10億円未満かの検証

まずは、先ほどの【公開価格】からみた【初値】騰落率の上位10銘柄と下位10銘柄のランキングをみてください。

【初値】騰落率から「IPO総額」がどうっだったのかをみていくと、【初値】騰落率上位10銘柄のうちの6銘柄が「IPO総額」が10億円未満となっていますね。
一方、【初値】騰落率下位10銘柄では「IPO総額」が10億円未満の銘柄は(11銘柄中)4銘柄となっています。
2023年においては、明らかといえるほど大きな違いはないかもしれませんが、全体として「IPO総額」が小さい方が【初値】騰落率が高い傾向がありそうに感じられるのではないでしょうか。

「IPO総額」の大小からも【初値】パフォーマンスがどうなったのかをみてみましょう。
次の2つの表は、それぞれ2023年のIPOのうち「IPO総額」の小さい下位10銘柄と大きい上位10銘柄をランキングしたものになります。

2023年の「IPO総額」下位10銘柄のランキング
2023年の「IPO総額」上位10銘柄のランキング

「IPO総額」の小さい下位10銘柄のうち4銘柄が【初値】が【公開価格】の2倍以上になっていますが、【初値】が【公開価格】を下回ってしまった銘柄も3銘柄ありますね。
一方で、「IPO総額」の大きい上位10銘柄では、【初値】が【公開価格】の2倍以上になっているのは1銘柄のみで、3銘柄で【初値】が【公開価格】を下回ってしまっています。
こちらもそこまで明確な傾向とまではいえませんが、やっぱり「IPO総額」が小さい方が【初値】が高騰しやすい何らかの傾向はあるといえそうです。

私としては、2023年IPOでも「IPO総額」が小さい方が【初値】騰落率が高い傾向があり、10億円未満という基準の当てはまりもまずまずのように思っています。

会社の事業内容がIT系かの検証

会社の事業内容がいわゆるIT系かという方は、どうでしょうか?

次の表は、2023年に株式を新規上場させた会社に関して、全銘柄、IT系の銘柄、その他の銘柄ごとの【初値】騰落率の分布をあらわしたものです。
なお、事業内容がIT系かどうかについては、上場時に公表される資料に記載された事業内容に「インターネット」「クラウド」「セキュリティ」「プラットフォーム」等といったキーワードが含まれているかなどを中心として私の主観も加味して分類しています。

IPO事業内容別【初値】騰落率の平均と騰落率別の銘柄数の分布(2023年)

その他の銘柄と比べてIT系の方が、【初値】が【公開価格】の2倍以上になる割合が大きくなっていますし、【初値】が【公開価格】を下回るような【初値】騰落率がマイナスになる割合についても、その他の銘柄の方がが大きくなっています。
事業内容がIT系の銘柄でもそれなりの割合で【初値】騰落率がマイナスになっているのは残念ですが、2023年については【初値】騰落率の平均でもその他の銘柄を上回っていて、【初値】パフォーマンスがある程度以上は優れているといえるでしょう。

2023年10月からのIPOの制度変更

2023年は10月からIPOの制度が一部変更されていますので、ここで簡単に取り上げておきたいと思います。

日本証券業協会などがIPOの値決めルールに関する改善策をとりまとめ、それを受けて、政府が関係する金融商品取引法に関する内閣府令を改正したのですが、具体的な改善策は次になります。

【仮条件】の範囲外での【公開価格】設定

今回の制度変更は、原則として2023年10月1日以後、証券取引所により上場が承認されたIPO銘柄が対象となり、2023年12月上場のIPO銘柄ですでに適用されているものもあります。
その中でも注目されるのは「【仮条件】の範囲外での【公開価格】設定」かと思います。

これまで【公開価格】は事前に設定される【仮条件】の範囲内でしか決定されなかったのですが、有価証券届出書や目論見書といったという開示書類に記載することにより、(その他の条件を含めた総合的な条件の範囲内ではあるものの、)【公開価格】が【仮条件】の下限の80%以上かつ上限の120%以下の範囲内で決定できるようになりました。

なお、2023年12月上場のIPO銘柄では、ほとんどの会社が「【仮条件】の範囲外での【公開価格】設定」ができるようにしており、結果として4銘柄が【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定しています。

【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定した2023年12月上場銘柄

残念ながら、【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定した4銘柄の【初値】パフォーマンスは比較的低調であり、半数の2銘柄で【初値】が【公開価格】を下回ってしまっています。

ただし、2023年12月は、IPO銘柄15銘柄中8銘柄で【初値】が【公開価格】を下回るような、歴史的にみてもIPOが特別に不調な月であり、【公開価格】からみた【初値】騰落率の平均値(15銘柄)も約23.6%の上昇にすぎないため、【仮条件】の上限の120%で【公開価格】を決定したことが【初値】パフォーマンスに悪影響を及ぼしたとまではいいきれないと考えています。

一方で、2023年12月は、IPO銘柄15銘柄中2銘柄が【公開価格】の2倍を超える【初値】をつけていますので、そのような著しく好調な【初値】パフォーマンスとなった銘柄がなかったことに関しては【初値】パフォーマンスの爆発力に欠ける部分があるのかもしれません。

売出株式数の柔軟な変更

また、売出株式数についても、【公開価格】の決定と同時に売出株式数の変更ができるようになっており、有価証券届出書や目論見書といったという開示書類に記載することにより、(その他の条件を含めた総合的な条件の範囲内ではあるものの、)「【公開価格】決定時の売出株式数」が「【仮条件】設定時の売出株式数」の80%以上かつ 120%以下の範囲内で変更できるようになっています。

なお、売出株式数の「売出」とは既存株主等が証券会社を通じて「ブックビルディング」等の手続を経て不特定多数の投資家に販売することをいい、会社が株式を発行して資金調達をする「公募(増資)」とは、証券会社を通じて「ブックビルディング」等の手続を経て不特定多数の投資家に販売する点では同じですが、既存株主等による株式の売却である点で異なります。

上場日程の期間短縮

これまでは有価証券届出書という開示書類を証券取引所が上場を承認した日に提出していたのですが、上場承認前の提出を可能とすることにより、承認から上場まで約1か月かかる期間を21日程度まで短縮できるようになっています。

上場日程の柔軟化

さらに、これまで上場承認時の有価証券届出書や目論見書といった開示書類に特定の上場日を記載していた実務について、一定の期間(1週間程度の範囲内)の上場日程(条件決定日、申込期間、払込期日、株式受渡期日、上場日等)を記載することが可能となっています。

この他、上場承認後の市場環境等を踏まえ、時機をとらえた上場を可能とする観点から、証券取引所への上場申請を取り下げることなく、訂正届出書(有価証券届出書の内容を変更する場合に提出する届出書)の提出による上場日の変更等も可能となっています。

2023年IPO主幹事証券ランキング

最後に2023年のIPOに関する主幹事証券ランキングも紹介しておきましょう。

主幹事証券ランキングの大切さ

と、その前に注意点をひとつ…
実はIPOの「ブックビルディング」の申込は、どこの証券会社でもできるわけではなく、原則として、ほんの一部の証券会社のみというのが実情です。
そして、あくまで私の個人的な考えにすぎないのですが、株式が上場される前に【公開価格】で株式購入するには、「主幹事」というIPOで主要な役割を果たす証券会社に「ブックビルディング」を申込むのが効率的だと思っています。
そのため、IPOの「ブックビルディング」申込にあたっては、主幹事証券ランキングがとっても大切だと思っているのです。

このあたりについては、すでに紹介した記事「まずはココから!【「超」初心者向け】IPOの基礎知識」の中で、IPOに関する証券会社についての注意点を取り上げていますので、気になった方はチェックしてみてくださいね。

実際の2023年IPO主幹事証券ランキングは?

で、実際の2023年IPO主幹事証券ランキングは次のようになっています。

2023年のIPO主幹事ランキング

みずほ証券とSBI証券が首位をわけあっていて、以下、野村證券、大和証券、SMBC日興証券の順になっていますが、上位5社の主幹事件数はほとんど変わらないことがわかります。

なお、2023年は共同主幹事案件が12件ありましたので、「主幹事件数」で12件、「①IPO総額10億円未満」で1件、「②事業内容IT系」で6件、「①かつ②」で1件、「初値公開価格割れ件数」で6件がダブルカウントされていることにご注意ください。
また、私はダブルカウントすることにしたのですが、共同主幹事案件のカウントの仕方によっては、順位が入れ替わる可能性があることも認識しておいてもらえればと思います。

内訳欄についても補足させてもらいましょう。
私はIPOの「ブックビルディング」に申込むに際に次の2つのポイントに注目していますので、私目線で有力な証券会社はどこかという発想で2つのポイントそれぞれと、それら両方の条件をみたす案件の件数をカウントしてみました。

  • 「IPO総額」が小さいか(10億円未満か)
  • 会社の事業内容がいわゆるIT系か

また、主幹事証券別に初値公開価格割れとなった件数と割合についての内訳も作成しています。
私は、現時点では主幹事証券の違いによる傾向があらわれるとまでは思ってはいませんが、参考までにといった感じですね。

内訳欄も加味して考えますと、私、そして私と同じポイントに注目して「ブックビルディング」に申込んでみようかと考えている方にとっては、SBI証券、みずほ証券、大和証券で取引するのがよさそうですね。

実際に私はSBI証券、野村證券、SMBC日興証券、みずほ証券に加えて、ネット証券の松井証券、マネックス証券、楽天証券でも口座を開設して取引しています。
もっとも、私の場合はIPOの「ブックビルディング」申込については、ほとんどSBI証券のみって感じになっちゃっていますし、初心者の方がIPOの「ブックビルディング」の申込をするのなら、まずはSBI証券で口座開設することをオススメしています。

どうしてSBI証券をオススメするのかは、IPOの「ブックビルディング」申込で口座開設すべき証券会社についてまとめた記事がありますので、こちらもチェックしてもらえればと思います。

以上、公認会計士KYでした!!
今回はかなりの長文になってしまいましたが、2023年IPOの【初値】パフォーマンスの傾向や、2023年10月からのIPOの制度変更について、理解を深めることができる内容であったように思います。
みなさんが最高の相場に巡り合えますように!